オープンデータを地図にすると何が見えるか|公開データ活用という選択肢と注意点
執筆: 谷岡 優士(株式会社FrameScript 代表取締役)
この記事でわかること
- 公開データが「あるのに使われない」理由
- 公開データを地図にして分かったこと(自社の取り組み実例)
- 地図やグラフにできる公開データの種類と、重ねると意味が出る組み合わせ
- 実際にやるときに気をつけたい3つの注意点
国や自治体は、統計や台帳のデータを数多く無料で公開しています。ところが実際に見に行くと、そのままでは表計算ソフトで開くのも難しい形式で置かれていることがよくあります。この記事では、公開データを地図やグラフに変えることで何が見えるようになるのか、当社の取り組みを例に整理します。自社の業界や地域に関係するデータが、実はすでに公開されている、ということも珍しくありません。
なぜ公開データは「あるのに使われない」のか
国の省庁や自治体は、統計・台帳・地図情報などを積極的に公開する方針を取っています。件数だけで見れば、決して少なくありません。
問題は形式です。公開されているデータの多くは、住所や緯度経度が数値のまま入っていたり、年によって列の並びが変わっていたり、地域を表すコードの付け方が省庁ごとに違っていたりします。統計表がPDFでしか公開されていなかったり、都道府県ごとに別々のファイルに分かれていて、それらを一つにまとめる作業が必要になったりすることもあります。ダウンロードしてすぐに開けるとは限らず、意味のある形に整えるまでに手間がかかります。
その結果、「データはあるのに、誰も見ていない」という状態が起きます。数字や座標の羅列のままでは判断材料になりませんが、地図やグラフという目で見える形に変えると、同じデータでも扱いやすくなります。
実例:松戸市の通学時間帯の事故を地図にした取り組み
当社では、警察庁が公開している交通事故のオープンデータをもとに、松戸市の人身事故を地図にしたツールを無料で公開しています。実際の画面はこちらで確認できます(松戸 通学時間帯の事故マップ)。
元になっているのは、そのままではとても扱いにくい形式の生データです。当社で内容を確認し、必要な項目だけを抜き出して、地図で見られる形に整えました。
警察庁のデータには、全国の人身事故が緯度経度つきで記録されており、年間30万件前後にのぼります。このうち松戸市内で発生した分を抽出すると、2019〜2024年の6年間で6,102件でした。
このデータをそのまま全部表示しても、点が密集するだけで判断材料にはなりません。そこで、平日の通学時間帯(登校7〜8時台・下校14〜16時台)に、歩行者・自転車が関わった事故に絞って初期表示するようにしました。あわせて、松戸市が公開している小学校の位置データも重ねています。
この地図でできないこと
ここで正直に書いておきたいことがあります。警察庁のデータには事故の当事者の年齢が記録されていますが、区分が粗く、最も細かい区分でも「0〜24歳」までしか分かりません。つまり、このデータだけでは「子どもが関わった事故」だけを抜き出すことは、原理的にできません。
そのため、この取り組みは「子ども向けの安全マップ」ではなく、「通学時間帯に、歩行者・自転車が関わった事故」という絞り方にとどめています。データが答えられる範囲を超えて、答えられるかのように見せることはしていません。この制約は地図のページにもそのまま明記しています。できないことを、できるかのように見せないことが、この種の取り組みでは特に大事だと考えています。
地図やグラフにできる公開データは他にもある
交通事故以外にも、地図や表にできる公開データはいくつもあります。以下は、実際に存在を確認できたものの一部です。
| データ | 主な出典 | 中身 |
|---|---|---|
| 交通事故の発生地点 | 警察庁 | 人身事故の発生地点を緯度経度つきで公開 |
| 法人の所在地 | 国税庁(法人番号公表サイト) | 全国およそ500万法人の本店所在地を月次で更新 |
| 国の入札の落札結果 | デジタル庁(調達ポータル) | 落札した法人の情報を法人番号つきで公開 |
| 人口・世帯のメッシュ統計 | 総務省(e-Stat) | 地域を格子状に区切った人口・世帯数のデータ |
| 地価公示 | 国土交通省 | 全国の標準地の価格 |
| 浸水想定区域・避難所 | 国土数値情報・国土地理院 | 水害リスクのある区域と避難所の位置 |
| 医療機関・介護施設 | 厚生労働省 | 施設の所在地・種別 |
一つひとつのデータも役に立ちますが、重ねると意味が出る組み合わせがあります。たとえば高齢化率のデータと介護施設の分布を重ねると、施設が足りていない地域が見えてきます。浸水想定区域と避難所の位置を重ねると、避難先そのものが浸水想定区域に入っている状態が見えることもあります。
一つのデータだけでは気づかなかったことが、複数のデータを同じ地図の上に置くことで見えてくる。これが、公開データを可視化する一番の価値だと考えています。
実際にやるときの注意点
公開データを地図やグラフにするときは、次の3点を確認しておくと安心です。
1. データの形式が扱いにくいことが多い
同じ制度のデータでも、年によって列の並びが変わったり、地域を表すコードの付け方が省庁ごとに違ったりします。前提を知らずに開くと、数値の羅列にしか見えないことがあります。使う前に、そのデータ特有のクセを確認する作業が欠かせません。
2. 利用規約の確認が必要
多くの公開データは商用利用も可能ですが、条件がついている場合があります。たとえば、データを加工した場合は「加工して作成」といった出典の明記を求められることがあります。また、地図を表示するサービスの中には、地図そのものを画像として保存したり、そのまま配布したりすることを規約で禁止しているものもあります。データの規約と、表示に使うサービスの規約は別物として、両方を確認しておく必要があります。
3. 個人が特定できる形は避ける
公開されている情報でも、集約の仕方によっては個人が特定できてしまう場合があります。実際に、破産者の情報を地図化したサイトが、個人情報保護委員会の行政指導を受けて閉鎖された事例があります。「公開情報だから問題ない」とは言い切れません。何を、どこまで表示するかは慎重に判断する必要があります。
難しく見えるかもしれませんが、最初から全てのデータを扱う必要はありません。まずは自社に関係が深い1つのデータから試してみるという進め方もあります。
まとめ
公開データが使われない理由の多くは、内容ではなく形式にあります。地図やグラフという見える形に変えるだけで、今まで埋もれていたことが見えてくることがあります。当社で公開している松戸市の事故マップも、特別な技術を使ったわけではなく、公開データを整理して地図に乗せただけのものです。統計ソフトやライセンス費用をかけなくても、無料の地図表示の仕組みと地道な作業の積み重ねで形にできることも多いです。ただし、データが答えられる範囲を超えて見せないこと、規約と個人情報の扱いを確認することは欠かせません。
「うちの業界に関係するこのデータも、地図やグラフにできるだろうか」という相談は、業種を問わず歓迎しています。まずは今のデータがどんな形で公開されているかを、一緒に確認するところから始められればと思います。